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徳島地方裁判所 昭和23年(行)12号 判決 1949年3月31日

原告

白石工業株式会社

被告

橘町農地委員会

主文

本件北新田荒地田三筆に対する原告の訴を却下する。

その余の原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告会が原告所有の別紙目録記載の土地につき為した買収計画はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、その請求原因として、

被告会は原告所有の別紙目録記載の土地に対し未墾地買収計画を立てたので原告は同会へ異議申立を為し、更に訴外徳島県農地委員会へ訴願したところ、訴願棄却の裁決がなされた。然しながら本買収計画には次のような違法な点がある。

第一に本買収計画は自作農創設特別措置法第三十条第三十一条により徳島県農地委員会がこれを樹立しなければならないのであつて被告にその権限はない。第二に本件土地の中北新田の三筆は既墾地である。即ち本件土地は元来海面に接続した沼沢地であるが、海面との間に堤を築き海水の浸入を防いで土地を構築しているのであるが、海水の浸潤のため塩分が多く収穫僅少であつて経済的には耕作に適しないから数年来耕作を為さず放置してあつて免租地となつているものである原告はこの現状に着眼しこれを宅地として工場を建設し、原告が程遠くない那賀郡長生村に原料石灰石山を所有しているのでこれを同所に選び製造工業を営み、本土地を最経済的に利用しようとしてこれを買入れたものであるから、右三筆の土地に対する未墾地としての本件買収計画は違法である。第三に本件買収計画は自作農創設上必要欠くことのできない性質のものでないからこれを敢てした点が違法である。第四に本件土地は客観的に特別の価値を有する特別の事請があるにもかゝわらずこれを考慮せずして買収価格を決定したのは違法である。以上いずれの点からしても本件買収計画は違法な行政処分たるを免れないからこれの取消を求めるため本訴請求に及んだ次第である。と述べ、被告の抗弁事実を全て争い乙号各証の成立を認めた。被告訴訟代理人は本案前の抗弁として原告請求趣旨掲記の土地中北新田荒地田三筆については被告会が昭和二十三年三月二日買収計画を立てたのであるが、その後同年八月三日これの取消決議を為し同月五日徳島県農地委員会の承認を得、その旨原告に通知したから、本件訴訟の目的物である行政処分は存在しなくつたからこの部分に関する原告の訴を却下されたい。又同物件中靑木及び幸田の各山林について被告会の立てた買収計画に対し原告は異議訴願を為すことなく本訴に及んでいるから当然不適法として却下されたい。と述べ、本案につき、被告会が原告所有の本訴物件に対し未墾地買収計画を立てたこと、原告が右物件中北新田荒地田三筆につき被告会に異議申立を為したことは何れもこれを認めるがその余の事実を全て争う。と述べた。(立証省略)

理由

被告会が原告所有の本訴物件につき未墾地買収計画を立てたことは当事者間争ない。先ず右物件中北新田荒地田三筆についての被告の抗弁を案ずるに、成立に争ない乙第一、二号証によれば被告会が昭和二十三年八月三日右物件に対する本件買収計画を取消し、同月五日徳島県農地委員会の承認を得たことが明白であるから右物件に対する本訴目的物である行政処分は消滅したから、原告のこの部分に対する訴はその利益を欠くものとして却下することとする。次に靑木及び幸田の各山林につき原告が被告会の買収処分に対し異議訴願を為さなかつたことは原告の争わないところであるが、此の点に関する行政事件訴訟特例法第二条の規定は本件訴が同法施行前に提起されたものであるから当然適用なく、その他此の点に関する被告の抗弁を容れるに足る根拠はない。よつて本案につき案ずるに靑木及び幸田の各山林に対する本件買収処分に関する原告主張事実は原告側でこれを認めるべき立証の全然ない本件では行政庁の為した処分として一応有効なものと認める外なく、原告の請求はこれを認めるに足る根拠がない。よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(今谷 赤塔 三木)

(目録省略)

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